匿名カササギ

理系大学院生の軌跡

【書評】『若き科学者へ』時代を超えて普遍的な科学者としての心構えを説く良書

免疫学研究の大家でノーベル医学・生理学賞を受賞したピーター・B・メダワー氏の『若き科学者へ』(原著は1979年出版ですが、2016年刊行の新版の方です。『数学ガール』著者の結城浩氏の解説付き)を読みました。

 

きっかけ

大学院の授業で紹介されたため。

 

感想

 古い本かと思っていましたが、これからの時代も通用しそうな科学者としての普遍的な心構えを説く内容が多く、はっとさせられました。テーマの選定から研究成果の発表まで、研究の一連の流れに沿って各段階での留意事項が散りばめられており、どこかの段階で研究に行き詰ったときに読み返すとさらに実感を持って理解できそうです。

個人的に印象深かった内容は以下です。

 

1.科学者としての適性について

よい科学者になるためには、ひどく頭がいい必要はない

とあり、最低限の知性があれば、ほかの精神的な要素(勤勉さや粘り強さ)が重要と述べられています。また、手先が不器用だから向いていないということはなく、手技は後から身に付ければよい、ただし

科学者になるのに確かに不適な特性の一つは、手仕事を卑しいとか劣等とだと思うこと

とあり、先天的な才能よりは後天的な努力(ができる性質であること)に重きが置かれています。これが本当なら個人的には朗報ですが、実際は、研究がうまくいかないときに、才能がないからやめたほうがいいのでは、と思うことが多いので、適性を判断するのは難しいですね…。

 

2.研究テーマについて

重要な発見をしたいと思うなら、重要な問題に取り組まねばならない。

紹介文でも取り上げられているおそらく有名な一文です。この後に

問題が『興味深い』というだけでは充分でない。ほとんどどんな問題も、充分深く研究されるなら興味深いものだからである。

と続いていて、とても耳が痛くなりました。研究テーマの設定は、その実行、それから論文化と同じくらい重要だとわかってはいますが、一大学院生にはまだまだ荷が重いです。論文化については、

科学研究は、その結果を発表するまでは完了しない。

という簡潔でこれまた耳が痛い一文もありました。また、大学院生向けには、

大学院生は、博士号をとった後は、博士論文の主題を生涯研究し続ける必要はけっしてない。

となっているので、数年後の教訓として覚えておきたいですね。

 

3.優れた研究成果を出すことについて

今回一番心に残った一節は、

ある仮説を真であると信じる気持ちの強さは、それが真であるか否かには何の関係もない。

です。長い期間に渡ってある仮説をもとに研究をしていると、それが可愛くなって固執してしまうものですが、自然は科学者の心理には何の忖度もしません。この教訓は若手に限らずベテランの科学者にも、有効ではないでしょうか。また、

幸運はほとんどつねに、それによって満たされる期待が前もって存在する所にのみやってくる。

とあり、念入りに準備をして考え抜かなければ良い発見をすることはできないと説かれています。幸運の女神には前髪しかない、という諺と似ていますが、最終的にはセレンディピティの一押しが成功に繋がるにしても、そのセレンディピティの恩恵を受けるためには、十分な努力と下準備が必要なのですね。つらいのは、十分な努力と下準備は成功の必要条件であって十分条件ではないので、報われるとは限らない(幸運がやってこなければ報われない)ところですが…。

 

オススメ

 時代を超えて普遍的な科学者としての心構えを説く良書なので、専攻分野を問わず、研究を始めたばかりの大学生・大学院生は一読すると良いと思います。分量は多くないので1日2章を15分くらいで読めて、全12章なので1週間もあれば読み終わる程度です。

若き科学者へ【新版】 | ピーター・B・メダワー, 結城浩(解説), 鎮目恭夫 |本 | 通販 | Amazon